生葉でFQRが見えてきた!
- Chikahiro Miyake
- 9月19日
- 読了時間: 4分
光化学系I(PSI)循環的電子伝達(PSI-CET)の実態が明らかになった、そしてFQRは実在する~提唱後約70年の謎~
先日、博士課程1回生・佐藤勇斗さんの論文が公表(Front Plant Sci; https://www.frontiersin.org/journals/plant-science/articles/10.3389/fpls.2025.1626163/full)されました。In vivo生葉で光化学系I(PSI)循環的電子伝達(PSI-CET)が機能発現するための性質を明らかにし、PSI-CETを触媒するフェレドキシン(Fd)-プラストキノン(PQ)酸化還元酵素(FQR)が存在することを世界で初めて明らかにしました。この成功には、2つのPSI-CET論文(https://doi.org/10.3390/ijms241512145, https://doi.org/10.3390/ijms25052677)報告がなくてはならないものでした。2023年大西さんの論文ではPSI-CETのFdから電子を受け取るPQの存在、2024年前河さんの論文ではPSI-CETのFdの存在がそれぞれ必要であることを明らかにしていました。
PSI-CETでFQRが機能するためには、電子供与体であるFdと電子受容体であるPQが必要です。つまり、PSI-CETの活性は、FdおよびPQの酸化還元レベルに応答します。FdとPQの酸化還元レベルを同時にそれぞれ変化する状況で、はじめてPSI-CET機能発現の全容が明らかになります。上記二つの論文(Ohnishi et al., 2023; Maekawa et al., 2024)では、A/Ci解析を行っております。この解析では、一定の光強度でCO2分圧を低下させる、つまり、葉内CO2分圧(Ci)を低下させます。P700酸化システムの解析でいつも設定していた光合成の光飽和条件です。この条件では、Ciが低下してもFdの還元レベルは一定です。これは、P700酸化システムが機能し、ルビスコによるCO2同化/光呼吸能の低下に応じてシステマティックにP700酸化が駆動することが理由です。P700酸化の精密さを認めることができます。
佐藤さんの論文では、光合成の光強度依存性を解析することで、PQおよびFdのレドックス状態をそれぞれ変化させることに成功しました。つまり、一つの実験条件で、PSI-CET活性発現メカニズム、活性の大きさを評価できる優れた解析です。PSI-CET速度(vCET)は、以下の速度式です。
vCET = k × PQox × Fdred 式1
定数項kは、PSI-CETで還元型フェレドキシン(Fdred)から酸化型プラストキノン(PQox)への電子伝達を触媒する酵素FQRの触媒活性および量に依存するパラメータです。生葉で定数項の存在を初めて確認できました。PSI-CETが約70年前に提唱されて以来、私たちの視点でPSI-CETの解析が報告された例はありませんでした。In vitro研究で提唱されたPSI-CETがin vivo生葉でPSI-CETの存在を確信した瞬間でした。
さらに、PSI-CET活性を示すvCET(式1)から自明なことですが、PQoxおよびFdredにvCETは依存しなければなりません。この視点での論文報告は今までありませんでした。つまり、光合成効率が低下する強光、低CO2そして環境ストレスによる光合成抑制時は必然的に光合成能が低下し、PQが還元されます。一方、これらの条件では、P700酸化システムが駆動し、P700が酸化され、Fdの還元レベルは一定に保持されます。つまり、これらの条件ではvCETが低下するはずです。佐藤さんの論文では、この予測を見事に実証しました。PSI-CET活性発現様式が初めて証明されました。
この論文作成の過程で、佐藤さんの実験データを議論する際に感動するばかりでした。vCETの光強度依存性がピーク応答するんですね。生葉での電子伝達解析の長い歴史の中で、光強度増大に伴いCO2同化(光合成)速度は飽和し、これと同調する形で光合成電子伝達速度も飽和しているものばかりです。驚きをもって、PSI-CETが制御されていることを確信しました。
これまで、学生さんとの研究の中で初めて出会う生理現象:瀬島さんの「光がPSI光障害を抑制する」これがP700酸化システムの発見そして解明研究の始まり;釈さんのRISEによる電子伝達抑制(酸素発生が停止する)の発見;瀬島さんの光呼吸現象の発見(オルタナティブ電子伝達の全容が見えてきた);大西さん・古谷さんの必須栄養素欠乏が示すレーダーチャート解析;古谷さんのPSI電子受容体酸化によるPSI光障害抑制(P700酸化システムの完成)、は研究者として最高の喜びでした。今回、佐藤さんのデータは彼らの業績に並ぶものです。学生さんたちに感謝です。
佐藤さんの論文でさらにPSI-CETの生理的役割を明らかにする事実がありました。vCETとATP生成速度が見事に相関します。70年前に提唱されたPSI-CETの生理機能を初めて実証できたことです。この相関のデータも私を感動させました。70年前に提唱してくださった研究者の方々に感謝、彼らがいなければ私たちのデータ解釈できませんでした。サイエンスの継続性、正しい実験事実に基づいていれば、いつかは繋がるということを改めて学びました。
この論文で確立したPSI-CET評価法は、今後ラン藻(シアノバクテリア)、真核藻類、コケ、シダ、裸子植物そして被子植物におけるPSI-CET研究のスタンダードになる方法です。ご興味を持たれた方は、上記論文をご笑読ください。
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