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PSI機能失活とその抑制モデルの実証に成功しました!(Antioxidants 2023, 12(1), 21; https://doi.org/10.3390/antiox12010021 - 2

更新日:2023年1月19日

2020年に提唱していたPSIでの活性酸素(ROS)生成とその抑制モデル(Antioxidants 2020, 9(3), 230; https://doi.org/10.3390/antiox9030230 - 11 Mar 2020)の実証に成功しました。PSIでのO2還元によるH2O2生成の発見(メーラー反応, Mehler 1951)に始まる光合成生物でのROS代謝研究は、その後O2還元の初発生成物がO2-であることが発見され、ROS消去系(SOD, APX, MDAR, DHAR, GR)の解明競争に見られるように大きく加速しました(Asada & Kiso 1973)。そして、ROS消去系が存在するにもかかわらず、ROSよるPSI失活が初めて示されたのが同時期の佐藤先生によるものでした(Satoh 1970)。それから、多くのPSI失活事例が論文報告されてきました(この事実の報告に貢献された研究者の方々を上記論文で紹介しております)。

私は、自然環境の太陽光下で、光合成生物がなぜ安全に光合成を維持できるのか、その1点に興味を抱いてきました。実験環境ではいともたやすくROSによるPSI機能喪失、そして光合成能の低下を作り出せます、ROS消去系をもつにもかかわらず(Sejima et al. 2014, ほか多くの事例)。これらの実験事実は、光合成生物がROS生成に対する抑制系をもつことを示唆しています。このアイディアに応える有力な事実は、世界で初めて実験事実としてSejima et al. (2014)論文で示すことができていました。PSI反応中心クロロフィルP700が酸化状態に保たれていれば、PSI失活が抑制されます。このP700酸化には光が必要です。光によるPSI失活が光により抑制されます。非常に驚きの事実でした。P700が酸化されていない状況での光は危険極まりないものです。これらの事実は、最初の酸素(O2)発生型光合成生物であるシアノバクテリア(藍藻)から被子植物まですべてに適用できる頑健なものです。普遍性がある以上に重要な事実です。

これらの事実から導かれる疑問が出てきます。光合成に必要以上の光エネルギーを光合成生物が受けなければならない状況では、PSIでROS生成抑制のためにP700は酸化されているのでしょうか?はい、そうです。この事実相関は、1989年Harbinson等により示されました。その後90年代初頭に多く報告されています(上記論文に紹介)。その当時、また直近まで、光合成が抑制されている状況で、P700がP700+へ酸化されることにより、P700+が光合成に利用されない余剰の光エネルギーを吸収し、熱として散逸しているという漠然な考察がなされていました。これはこれで、事実相関ですのでおそらく矛盾はないのでしょうが、なぜ、どのように、という二つの疑問が生じます。1989年以降、本件に関する深堀りがなされていませんでした。

私たちが見出した事実がこの答えにたどり着くきっかけを与えました。「P700酸化がROSによるPSI失活を抑制する」という事実は、そのメカニズムに迫る道筋を見せてくれました。PSIでのO2-生成のメカニズムは、Takahashi & Asada (1988)により明らかにされていました。PSIタンパク質複合体において、電子伝達体であるFxそしてFA/FBが還元され電子をもつとO2へ速やかに電子を与える性質をもちます。この複合体内で生成したO2-の寿命は長く、O2-はチラコイド膜の脂質内では蓄積しやすく、PSIに酸化障害を与えます。そして、O2-は、80年代後半そして90年代初頭にすでに明らかにされていたように、4Fe-4Sクラスターを速やかに酸化分解します。典型例としてAconitaseをあげることができます。学生時代に多くの論文を浅田浩二先生からご教授いただいた記憶が懐かしいです(約30年後に、再現性のある正しい事実は活かされることを改めて学ぶ機会でした)。

この事実を踏まえると、P700が酸化される状況では、PSIでのFe/Sは酸化されていなければならず、これによりO2のO2-への還元が抑制され、そしてPSIのO2-による酸化障害・機能不全は生じないはずです。この仮説を、本論文で検証し、実証に成功したわけです(Antioxidants 2023, 12(1), 21; https://doi.org/10.3390/antiox12010021 - 22 Dec 2022)。つまり、P700が酸化され、漠然と熱散逸していると言われていたことが、なぜ熱散逸されなければならないのかという実態を示すことに初めて成功しました。P700酸化システムは、PSI電子伝達体であるFx, FA/FBそしてFerredoxinに電子が蓄積しないようにP700を酸化し、過剰な光エネルギーをP700+が吸収し、熱として散逸する役割を担っていることになります。非常にリーズナブルな生理応答です。このFurutaniさんの論文は、P700酸化の核心をついたものです(Antioxidants 2023, 12(1), 21; https://doi.org/10.3390/antiox12010021 - 22 Dec 2022)。2014年にSejimaさんの論文でP700酸化とPSI失活抑制の事実相関を見出して以来、8年後の2022年にP700酸化によるROS生成抑制メカニズムの解明に至ることができました。そして、ROS専門誌(IF > 7.6)に報告できたことを嬉しく思っております。

今述べましたように、「なぜP700が酸化されなければならないのか?」という質問に答えることができました。つぎは、「どのようにP700が酸化されるのか?」という質問に答えなければなりません。非常に重要な課題です。今、この問題にこたえるべく取り組んでいる状況です。近い、非常に近い将来、ご報告できることと思います。

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