2017 April ホームページが新しくなりました。

研究活動

私は、今、所属している神戸大学農学部植物栄養学研究室で、以下の問題を解決すべく研究しています。

 

           ◆ 植物は、なぜ、日焼けをしないのか ? ◆

この問いは、私が学位をいただいた浅田浩二先生(京都大学・名誉教授)によるものです。

植物・作物が生育している自然環境は、必ずしも彼らにとって最適な環境とは限りません。むしろ、農業に代表されるように土壌改良、施肥、潅水、温度制御などの栽培管理をしなければ健やかな生育、多くの生産性は望めないのが現実です。つまり、彼らの潜在的な生長能あるいは生産性の100%発揮はあり得ないのです。

​栽培管理のまずさ、土壌改良のまずさは、植物・作物の生育の基盤となる光合成能を抑制してしまいます。このことが、非常に危険な状況にあることを私たちは世界で初めて明らかにすることに成功しました(Sejima et al. 2014)。

光合成では、光のエネルギーを用いて二酸化炭素(CO2)を糖に変換しています。そして、この糖は、私たち人間と同様に彼らが生きていくために必要な呼吸の原材料となるのです。光のエネルギーは、植物・作物のご機嫌に関係なく日々太陽から降り注がれてきます。したがって、光合成能が抑制される環境では、光エネルギーが余ってしまいます。

実験室環境で、光エネルギー余り状況を作ることに成功した瀬島君らは、いとも容易く植物の光合成能が失われていくことを発見しました(Sejima et al. 2014)。余った光エネルギーは、光合成で光エネルギーを化学エネルギーに変換する場、光合成をおこなっている葉緑体チラコイド膜、で活性酸素 (Reactive Oxygen Species, ROS) を生成します(Takagi et al. 2016, 2017)。そして、同時に、瀬島君らは、光合成能が失われないメカニズム(活性酸素生成抑制メカニズム)の発見にも至りました(Sejima et al. 2014)。その後の研究で、このメカニズムは植物のご先祖さまであるシアノバクテリア(ラン藻)がすでに獲得していたことを明らかにし、「P700 酸化システム (P700 Oxidation System)」と名づけました(Shimakawa et al. 2016, 2017a, b)。この「P700酸化システム」が機能するためには、多くのメカニズムがかかわることを明らかにしてきました。そして、それらは、光合成生物の進化の過程で、P700を酸化するためにカギとなる役者が変遷し、多様性をもつことも明らかにしてきました(Shimakawa et al. 2016, 2017a, b)。

 

さらに、この多様性を生み出していたのが地球化学史的観点から見た、大気O2濃度の変化でした(Hanawa et al. 2017)。それまで水環境で生育していたシアノバクテリアをはじめとする藻類が、拡散効率が大きい大気CO2を求め光合成能の促進を図り、陸上に進出するのは大きな賭けだったはずです。水中と比べ水獲得に苦労する陸上では乾燥という水不足の危機にさらされます。上述したように、これは光合成を抑制する危険な環境です。

私たちは、水生環境と陸生環境で「P700酸化システム」を駆動する分子メカニズムが異なることを明らかにしました。気体拡散が律速する水生環境ではFLVというタンパク質が「P700酸化システム」を駆動します(Hayashi et al. 2014, Shimakawa et al. 2015, Shaku et al. 2016, Shimakawa et al. 2016, 2017a, b)。一方、水生環境と比べ気体拡散が律速しない大気にさらされるコケ、シダ、裸子植物、C3被子植物では光呼吸が「P700酸化システム」を駆動します(Takagi et al. 2016, Hanawa et al. 2017)。

そして、水際で生きているコケではFLVと光呼吸による「P700酸化システム」の同時駆動が明らかにされました(Shimakawa et al. 2017)。つまり、FLVの存在が、光合成生物の陸上進出にとって重要な働きをしていたことを、私たちの研究は初めて明らかにしました。

このように、光合成生物は、自らの生命活動である光合成の営みでO2を放出することで地球環境を好気的に変えてきたわけですが、それは結果的に自らの光合成を守ることにもなったことが、私たちの研究で見えてきました。そして、このことが、問い「植物はなぜ日焼けしないのか」に対する一つの答えであります。

光合成生物とO2の関係はこのように奥が深いものがあります。浅田浩二先生が、光合成の営みで必ず生成する活性酸素にたいして、その消去システム(The Water-Water Cycle)を構築されました(Asada 1999)。浅田先生から学位をいただいた私としては、活性酸素の生成を抑制するメカニズム「P700酸化システム」に出会えたことは、光合成生物の酸素(O2)代謝の研究に貢献できたものと考えています。一緒に研究を進めてくださった学生さんらに感謝申し上げます。

さらに、私たちが出会った”P700酸化”という生理現象そのものは、約30年前から観測されていました(

Harbinson and Woodward (1987), Harbinson and Harley (1989), Harbinson and Foyer (1990),

Klughammer and Schreiber (1991), Klughammer and Schreiber (1994), Golding and Johnson

(2003), Miyake et al. (2004), Miyake et al. (2005)).しかしながら、何ら意義づけはされてきませんでした。光合成解析において、”P700酸化”は、植物生葉あるいはシアノバクテリアなどの藻類で容易く観測される一般的な生理現象であります。このなじみ深い生理現象の意義づけに成功したことは、自然環境で生育する光合成生物、あるいは農環境で生育する作物の生きている姿をより身近なものにしました。

今後の課題:"P700酸化システムの役者は出そろったか?", "P700酸化システムの強化は何をもたらすのか?", "P700酸化システムが必要でない光合成生物は存在するのか?", などなど、、、、。

★「P700酸化システム」について、より深い学術的な論考は光合成学会誌「光合成研究」に寄せた総説(嶋川、三宅 2017)に記載しております。さらに、光合成生物におけるO2代謝に興味をもたれた方は、ご一読いただければ幸いです。

上述の記述の根拠となる成果(その他は、Google Scholar で "Chikahiro Miyake"で検索してください)。

(1)  Sejima et al. (2014) Plant Cell Physiology

(2)  Takagi et al. (2016a) Plant Physiology

(3)  Takagi et al. (2016b) Photosynthesis Research

(4)  Shaku et al. (2016) Plant Cell Physiology

(5)  Sejima et al. (2016) Physiologia Plantarum

(6)  Shimakawa et al. (2016) Plant Physiology

(7)  Shimakawa et al. (2017a) Scientific Reports

(8)  Shimakawa et al. (2017b) Plant Physiology

(9)  Takagi et al. (2017) Physiologia Plantarum

(10)           Hanawa et al. (2017) Physiologia Plantarum

◆ 2016年4月までの研究内容および成果は、以前の HP(http://cmiyake.yukimizake.net/index.html) をご覧ください。